「Barbershops of America」は私たちの仲間であるロブ・ハマーによる美しい写真集。

この写真集のために、ロブは3年間アメリカの全50州を旅して、長い歴史を持つ古い理髪店を探した。80,000km以上の長い旅で750店ほどの理髪店を訪れ、その中のベスト75を写真集としてまとめた。

以前にもロブの作品を紹介したことがあるが、今一度この写真集を開いて、最高の理髪店のひとつを改めて紹介することにする。

トニーズ・バーバーショップ(ニューヨーク市、ブルックリン) 

理髪店のドアを開けるとまるで違う世界に入り込んだような気持ちになる、と私はいつも感じている。お店に足を踏み入れた瞬間に外の世界は消え、感覚が完全に変わってくる。

独特な音や道具や薬品の匂いなど、本物の理髪店には真似のできない雰囲気がある。ピンとこない人には、是非サンセットパークのトニーズ・バーバーショップに行ってみてほしい。

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噂によると、このビルは200年以上もの間ずっと理髪店だという。信じられないという人も、店内で30分ほど過ごしてみると意見が変わるはず。外観も長い年月を感じさせる。年季の入った看板には「トニーズ」と書いてあるので、みんなオーナーの名前がトニーだと思っているが、実は違う。

オーナーはイタリアからニューヨークに移住してきた。彼が持っていたのは、理髪師としてのスキルだけだった。たくさんの国を渡り歩きジプシーのような生活をしながら、その道で稼いでいたという。

ニューヨークに到着した数日後に仕事を見つけたが、問題は言葉だった。イタリアのなまりが強く、英語が全くわからなかった。

本名はフェリーチェ・ガラフォーロで、名前を聞かれた時にいつも「フェル・イーチ・エイ」答えていたが、なまりのせいでフィルという名前だと勘違いされてしまっていた。

毎回説明をすることが面倒になってきたころ、「トニー」という名前が書いてあるバッジをつけたお客さんがお店に入ってきた。その人に「お名前はなんですか?」と聞かれた時に「あなたと一緒ですよ、トニー」と答えたことをきっかけに、トニーという名前を使い続けているという。お店を引き継いだ時、お店の名前も「トニーズ」に。そして今では近所の誰もが、オーナーはトニーという名前だと思っている。

映画のセットで理髪店を作ることになったとしたら、トニーズは良いお手本になるだろう。ただ、ハリウッドの予算があったとしても、本物のディテールを再現することは難しい。もちろん、「本物」のお店とは何かについては意見が分かれるが。

トニーはなかなか出会えない「本物」の理髪師だ。そしてお店も、看板はいつ作られたのかわからないが、当時からほぼ変わっていないように感じられる。店内の壁の色も他のお店では見たことがない。照明を含め、本当に唯一無二の空間だ。

いつ引退するのかをトニーに聞いたが、はっきりした答えはなかった。55年間続けてきた理髪師の仕事は、彼のアイデンティティの大きな部分である。サンセットパークを含むブルックリン区全体が大きく変わってきて、トニーのビルを購入したいというオファーもあったそうだが、彼は売るつもりはないという。今日もトニーは、一日の仕事が終わったら2階へ上っていく。奥さんが作る夕食が待つ自宅へ帰るのだ。

Barbershops of America – Tony’s Barbershop from Uppercut Deluxe on Vimeo.

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